研究室

生体物質化学研究室

 海の中には微生物から海藻、魚介類、そして海洋哺乳動物まで様々な形態の生物が共存しています。私たち人類はこれらの多くを貴重な食料資源として利用していますが、薬や研究用試薬としても利用しています。

生体物質化学研究室は、海洋生物を食資源としてだけではなく、生化学資源として幅広く利用するため、海洋生物がもついろいろな生体成分について、その物質や機能を取り出し、または応用して私たちの生活に役立てることを目指しています。

 

研究紹介

 本研究室では、海洋生物を幅広く有効利用するためにいろいろな研究を行っています。

例えば

Ⅰ. 未利用資源の有効・高度利用

Ⅱ. 食環境の安全性評価

に関する研究です。

これらの研究のいくつかを見てみましょう。

 

Ⅰ. 未利用資源の有効・高度利用

1. アコヤガイがもつ接着タンパク質の特性解明と産業利用

真珠で有名なアコヤガイですが、アコヤガイを養殖していると糸のような繊維を伸ばして貝どうしがくっつくことがあります。この糸状の繊維は足糸と呼ばれ、二枚貝が接着するために分泌する物質であり、タンパク質でできています。足糸は粘着性があるのですが、詳しい構造や性状に関しては多くの点が不明です。

足糸を構成する粘着タンパク質の詳細を調べることで、水中や湿った環境でも使える接着剤への応用ができないかと考えています。バイオミメティクス(生物模倣)デザインによりサスティナブルな社会の実現に貢献することを目指しています。

 

2. 甲殻類色素タンパク質の発色機構

エビやカニなどの甲殻類は加熱すると赤くなりますが、その色調の変化には色素とタンパク質が関係しています。赤色のもととなるアスタキサンチンと呼ばれる色素は、タンパク質と結合した状態で生体内に存在しているため、生きている状態では赤くありません。ところが、加熱するとタンパク質が変性し色素が放出されるため赤くなります。しかし、この色素と結合するタンパク質の詳細については分かっていません。そこで当研究室では色素結合タンパク質の構造と色調との関係を明らかにしようとしています

 

3. ヒトデの生理活性物質

ヒトデはしばしば大発生し、魚介類やサンゴ礁が食害されたり、漁獲物と一緒に混獲されたりします。このため、ヒトデは環境や漁業に悪影響を及ぼす有害な生物として社会的に問題視されており、駆除の対象となっています。そして駆除されたヒトデは利用価値のないものとして焼却処分されているのが現状です。このヒトデを有効利用するために、ヒトデがもつサポニンという物質に着目しました。ヒトデサポニンの生理活性を詳しく調べたところ、抗真菌活性、抗コレステロール活性、抗ストレス活性を

示すことが分かりました。今まで利用価値がないとされてきたヒトデですが、防カビ剤や医薬品へ応用が期待されます。そこで、本研究室ではさまざまなヒトデからサポニンを抽出し、それらの諸性状の解明を試みています。

さらに、私たちはほとんどが利用されることなく廃棄されている魚の頭、内蔵、皮、骨のような部分にも着目し、抗菌タンパク質や健康機能に有用なさまざまな成分を見つけました。これらを新規機能性食品素材として利用することを目標に、有効成分の精製、構造決定、作用機構の解明に取り組んでいます。

 

Ⅱ. 食環境の安全性評価

4. 交雑フグの両親種判別

フグはテトロドトキシンと呼ばれる毒をもっており、毎年フグ毒による食中毒も起こっています。フグ毒がどこの部位にあるかは種によって異なっているため、食用にできる部位も種によって様々です。例えば、クサフグの食用部位は筋肉のみですが、マフグの場合は筋肉と精巣が食用とされます。さらにトラフグでは筋肉と精巣に加えて皮も食用にされます。

 

近年温暖化の影響で、従来日本沿岸には生息していなかった南方のフグや天然状態で異種間交雑したとしか考えられないような外観を持つ特殊なフグが水揚げされるようになってきました。

 

これら交雑フグについては、毒のある部位がほとんど分かっていないため食用にすることができません。したがって、交雑フグの両親種と毒のある部位を明らかにすることが重要だといえます。種判別は従来、形態学的特徴に基づいて行ってきたのですが、交雑種については外見から両親種を判別することは非常に困難です。したがって、フグの正確な両親種判別のためには形態学に基づく手法以外の方法を用いる必要があるといえます。当研究室ではフグを中心に有毒・有害魚類の鑑定法としてPCR増幅やRFLPと呼ばれる手法を用いて行っています。この方法はフグのDNAの塩基配列の違いによる判別法なので、外見が似ている種であっても容易に種判別を行うことができます。

 

外見での判別が困難な交雑フグの両親種特定においてもDNAを利用した方法が有効だと考えられます。したがって、交雑フグの両親種を正確に鑑別できるようなDNA鑑定法の確立を目指しています。

 

未利用資源の有効・高度利用や食環境の安全性評価以外にもいろいろな研究に取り組んでいます。その一つを紹介します。

 

5. 水生生物のDアミノ酸

 

 タンパク質を構成する20種類のアミノ酸には、グリシンを除いて互いに決して重なり合わない一対の鏡像異性体が存在します。それらのうち一方をL体、もう一方をD体と呼んでいます。生体内に存在するアミノ酸はすべてL体であるとされてきましたが、D体のアミノ酸も多くの生物に存在し、生理的に重要な役割を果たしていることが徐々に明らかとなってきました。水生生物においてもD-アラニンやD-アスパラギン酸といったD体のアミノ酸の存在が確認されています。例えば、タコやイカなどの頭足類では神経系に多量のD-アスパラギン酸が存在します。しかし、その生理機能や代謝経路についてはよく分かっていません。そこで当研究室では水生生物のD-アミノ酸に着目し、どのような種類のD-アミノ酸が存在しているのか、どのような役割を果たしているのか、どのように代謝されているのか、なぜD体でなくてはならないのかを解明しようとしています。

 

 ここで紹介した研究はほんの一部に過ぎません。私たちは、いろいろな海洋生物を対象とし、「有効利用」「食の安全」「食品機能」「環境改善」をキーワードに海洋生物資源を私たちの生活に役立てるための研究を行っています。生体物質化学研究室に興味をお持ちの方は、お気軽にご連絡下さい。

 

指導教員

研究室ホームページ

  • 石崎 松一郎(イシザキ ショウイチロウ)

    ISHIZAKI Shoichiro

  • 職名: 教授

    研究テーマ・キーワード:
    水産未利用資源、新規機能性食品素材、生理活性、糖鎖、配糖体、DNA、種判別、タンパク質、高次構造、cDNAクローニング、遺伝子組換え

  • 教員紹介サイト

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